発明家インタビュー

家具づくりを通じ心地いい関係を発明する

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松村亮平さん( ANTIPOEME代表 )

1977年香川県生まれ。家具設計士、職人。株式会社クラフト三枝、株式会社桜製作所を経て、2006年に独立。家具ブランド「ANTIPOEME」にて、素材、道具、形、人をつなぐ家具を製作している。他にも、建築家・岡 昇平氏との空間デザインユニット「こんぶ製作所」、古本屋「へちま文庫」、高知県佐川町にある「田中風呂製材所」など、家具・空間づくりを中心に幅広く活動している。
http://www.antipoeme.jp/
家具職人として、香川県高松市を中心に活躍されている松村さん。佐川町で100年前から続く「田中風呂製作所」の四代目として、2015年の終わり頃から月に1週間ほど佐川に滞在し、風呂桶の製作に取り組んでいます。これまで培ってきた家具職人としての技術や経験をベースに、昔から残る伝統的な風呂桶づくりの技法を守り、受け継いでいます。
- 松村さんの取り組まれている活動について教えてください。
社会人になってから10年ほど、家具職人・設計士として働いていましたが、30歳になることを機に独立し、自分一人で家具を作り始めました。元いた会社では、何百万円もするような高価な家具を作っていたのですが、自分では買えないものを作っていることに矛盾を感じていました。自分と同年代の人が購入できるような、価格は抑えつつも質の良い家具を作りたかったんです。
独立する前、仕事が終わった後の空いた時間で自分用の家具を作っていたのですが、それを見た友人が「うちにも作ってよ」と頼んでくれるようになって。それが、「ANTIPOEME」の始まりです。
同じ時期に、「なにか面白いことしたいね」といって仲のいいメンバーで集まっていました。そこから生まれたのが、建築家・岡昇平さんとのユニット「こんぶ製作所」です。基本的に一人でやっている時とものづくりに対するスタンスは変わりないのですが、二人で話し合ったりして進めていくとアイデアとアイデアが融合して、自分ひとりではならないような方向になっていくのが面白いです。
岡さんとは「へちま文庫」も運営しています。「へちま文庫」は、体裁は古本屋なんですけど、それ以外にも色々やっていきたいと考えている場所です。いつもは古本屋さんで、展覧会を開いたり、雑貨を販売したり、なにかしたいときにはなにかできる場所。誰かと誰かをつなぐような場所にしていきたいと思っている場所なんです。
そんな感じで今は、「ANTIPOEME」「こんぶ製作所」「へちま文庫」「田中風呂製作所」の4つの活動に取り組んでいます。
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左上:ANTIPOEME、右上:こんぶ製作所、左下:へちま文庫、右下:田中風呂製作所

- 香川県を中心に活動されていた松村さんですが、どういった経緯で佐川町にある「田中風呂製作所」で活動するようになったんですか?
僕の奥さんの実家が、四代前から続く「田中風呂製作所」だったんです。ご両親に結婚の挨拶をするとき、初めて知りました。昔は、司牡丹の樽も製作していたそうです。僕も木工の仕事をしていることもあり、教わりながら手伝わせてもらっていました。お義父さんが亡くなり、そのまま僕が引き継ぐ形でここでの活動を本格的に始めました。今は月2、3件ほど、温泉施設や個人から注文を受けて製作しています。
-「田中風呂製作所」では、どのようなものをつくられていますか?
「田中風呂製作所」では材料に高野槙(コウヤマキ)という日本固有の耐久性のある木を使用していて、板の接合には現在はあまり使われなくなった両釘を使用しています。作り方も材料も先代からの手法やつながりを大切にしてます。高野槙は、先代の時から取引をしている高知県内の木材屋さんから仕入れています。両釘は、大阪の鐵工所(てっこうしょ)に特注で頼んでいます。両釘はもう建築でもほとんど使われなくなったので、作っているところが少ないんですよね。それでも、僕はこの両釘を使ったそのままの手法で作りたいと思っています。
義父が急逝したので、引き継げた木風呂作りの技術は半分くらいだと思っていて。機械の扱い方などは僕もそれなりに分かるんですけど、今はこの工場にあるものを、見ながら、使いながら、先代がどのように作っていたのか推測しながら作業しています。もしかしたらお義父さんと違う作り方をしているかもしれないし、同じ作り方をしているかもしれない。そういう面では大変ですが、昔ながらの作り方を学びつつ、自分なりに考えて作ってみる、試行錯誤して手法を発掘していくのが面白いです。
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松村さんが製作した風呂
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製材された高野槙。丈夫で腐りくく、水に強い
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板の接合に使われる特注の両釘
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「田中風呂製作所」の様子

- それ以外の“発明”活動についても、もう少し詳しくお聞かせください。
「ANTIPOEME」では、独立してからずっと四角い家具を作っていました。「四角」は、普遍的で基本的な形。この中で装飾を入れずにどこまで自分を表現できるか、ということを考えて製作していました。そんな中、香川県の仏生山法然寺を訪れた時に見た、松平家のお墓が変わった形をしていて。無縫塔(むほうとう)といって一般的なお墓と違い、丸い頭をしていてさらに先が少しとんがった形をしているお墓があったんです。それが美しくて。その形をモチーフにした立体を用いた、ワークショップを行ったりもしたんですよ。
そういったこともあり、「丸い」形の家具作りにも挑戦してみようと思いました。「丸」という形は面白くて、角っとしたものでもその一部をほんの少し丸くするだけですごく印象が変わる。「丸」を取り入れた当初は、専用の刃物で1mm削ってはその都度アールを検討して…自分の納得のいくアールを探していました。そういったことを経て、初めてしっくりきた家具は「MD CHAIR」。一見丸みのある椅子ではないんだけど、背もたれや座面、足元の一部を丸くしてあるんです。人が意志では判断していない、その絶妙な部分、無意識のうちに感じている部分を考えているのかなって思っています。
「へちま文庫」で使用している「へちまライト」。この照明は「へちま文庫」のオープンに合わせて製作しました。「へちま文庫」って名前だけは決まっていたので、やっぱりへちまみたいにぶらさがっている照明を作りたいなって。その場所に合ったものを作りたいと思ったんですよね。
家具を作るときも、「HPに掲載されている椅子を10脚ください」っていう注文より、「新しい家を建てるからその家にあった椅子を作ってください」っていう注文の方が、わくわくします。注文者と話して、一緒に考えて、どういう家具にするか、その場所にあったものを提案して作ることが好きです。
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高松藩120000石の無縫塔(引用元:民家民
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無縫塔の形をモチーフに製作した立体
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「丸」を意識的に取り入れた家具「MD CHAIR」
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「へちま文庫」のために製作した「へちまライト」

- 松村さんの価値観を変えた“発明”について教えてください。
詩人・北園克衛氏の造語、「アンチポエム」です。詩人であり、グラフィックデザイナーであり、写真家でもあった北園は、日本でも最も早い段階でシュールレアリズムに触発され、それを発信し続けたた前衛芸術家の一人です。一般的に詩は言語の持つ意味で表現すると思うのですが、北園は文字の形や大きさ・構成・紙面上の余白にも気を配り、そのすべてで詩を表現していました。視覚的にも詩を表現していたんでしょうね。
はじめは北園も純粋詩を書いていたんですけど、ある時から変わったみたいで。本のあとがきの中で「純粋詩の極限に聳えている絶対の壁を突破ったところから、アンチポエムの世界がはじまる」という言葉がありました。それは決して今までの詩を否定するということでなく、それを超越していくって意味での「アンチ」。今までの詩を超えていくっていう意味で使われていてかっこいいなと思いました。
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北園克衛 著『煙の直線』の「単調な空間」。松村さんの好きな作品の1つ(写真引用元:https://sumally.com/p/175734

- これから、どのような“発明”に挑戦していきたいですか。
おもしろそうなことがあれば、何でもやってみたいです。せっかく佐川町で木風呂を作っているから、佐川産の檜で風呂桶作りをしたりしたいですね。なので、佐川町の地域おこし協力隊「自伐型林業」の活動にはとても関心があります。佐川町でどんな種類の木がどのくらい採れて、それを流通させるところまでいけるのかどうかなど、いろいろ知りたいです。もし佐川町の山から、高野槙が出たら実際に購入して使いたいですし、そうやって循環していくことができたら素晴らしいじゃないですか。
- 最後に、「さかわ発明ラボ」へメッセージをお願いします。
ラボの機材を使って、いろいろ試してみたいですね。例えば「へちま文庫」のロゴを木にレーザーで彫刻してキーホルダーを作ったり。些細なことだけど、それだけでも可愛くなりそう。僕もせっかく佐川町で仕事をすることになったので、ラボで作りながら、どんなことができるのか探りつつ、なにか一緒にできることがあればぜひ挑戦したいと思っています。あとは、ラボの機材を町として住民のためにどう返していくのか、買って終わりではなく、そういったところの運営も気になっています。地域おこし協力隊の自伐型林業の存在や佐川町の檜についても可能性を感じているので、なんらかの形で、自分も佐川町からおもしろい発明を生み出すことに携わっていけたらいいな、と思います。



(取材日:2016年11月9日)

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