発明家インタビュー

こどもも大人も「みんなが主役」の場を発明する

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小笠原舞さん(保育士起業家 / こどもみらい探求社 共同代表 / asobi基地代表)

1984年愛知県生まれ。合同会社「こどもみらい探求社」共同代表。asobi基地代表。2012年7月に、育児支援コミュニティ「asobi基地」をスタート。2013年6月には、「こどもみらい探求社」を設立。こどもたちにとって本当にいい未来を探求するため、保育士の新しい働き方を実践しながら、既存の枠にとらわれない仕掛けを生み出しつづけている。
http://kodomo-mirai-tankyu.com/
幼少期にハンデを持った友人と出会ったことから、福祉の道に興味を持ち始めた小笠原舞さん。大学時代に参加した障がい児保育のボランティアで、こどもたちの持つまっすぐに生きる力に魅了され、独学にて保育士資格を取得。社会人経験を経て保育現場での活動を始めました。現在は「こどもみらい探求社」の共同代表を勤めるパートナー・小竹めぐみさんと共に、親子で通う新しい幼児教室「おやこ保育園」をはじめ、親子・自治体・企業などあらゆる人を巻き込みながら、子育ての現場と社会を結ぶチャレンジを続けています。
- 小笠原さんが共同代表を務める「こどもみらい探求社」では、親子に関わるさまざまな取り組みを実践されています。それらの活動の中から、“発明”の1つを教えてください。
おやこ保育園」という、親子で通う幼児教室の企画・運営をしています。月に2回・全10回卒園型のプログラムで、子どもを預かる本来の保育園とは違い、保護者が保育士と一緒に子どもを見ながら、子育てスキルを学ぶことができます。各回3時間のプログラムで、前半は「こどもが主役の時間」、昼食をはさんで、後半は「おとなが主役の時間」。対象は0~2歳のこどもとその親で、1期に参加する家族は10~12家族くらい。現在は、東京・京都の二カ所で開園しています。
「こどもが主役の時間」では、「じかん・かたち・おと・いろ・ひかり・いきもの・からだ・ぶんか」などのテーマに合わせた素材を用意。こどもたちはそれらを使って、自由に遊びます。大人たちはー口出しや手出しをしてしまわないよう、行動観察シートを記入してもらいます。「どんな視線でモノを見ているか?」「どんなものに興味があるか?」「どんな表情で遊んでいるか?」などの投げかけが書かれているのですが、これらは、保育士が普段考えていることと同じなんです。これを続けていると、シートがなくても自然と目の前のこどもの些細な行動や仕草に気づけるようになります。ありのままのわが子を丸ごと受け止め、信じるための練習です。
「おとなが主役の時間」では、こどもが遊ぶ隣で、大人たちはその日のテーマに沿ったダイアログ(対話)を行います。テーマは「しつけ、家族、個性、アート」など、さまざまです。他のお母さんと対話を通じて、自分にはなかった新しい視点や、自分の中で大事にしていることに気づいていく時間です。
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- この場を企画・運営する中で、「こどもみらい探求社」が大切にしていることは何ですか?
親子向けの企画ってたくさんあるんですけど、こどもか大人、どちらかが我慢している時間があったりして、両方が満足できるイベントって意外とないんです。「おやこ保育園」は「保育園」だから、もちろんこどものために来るんですけど、大人のための時間にもしたいと考えています。そのため、毎回最初にママたち同士で今の心の状態をシェアし、一人ひとりに今日の目標を話してもらうことで、「ママ」から「一人の個」に戻れる時間を設けています。
また、「教える・教わる」のではなく、こどもも、親も、私たちスタッフも含めて、みんながお互いから学び合える関係性を大事にしています。みんな本音で対話するので、卒園するころには親戚同士のような子育てコミュニティができあがっています。
- 「こどもみらい探求社」では「おやこ保育園」の他に、どんな活動をされていますか?
「リアル、ときどきオンライン!」を軸に、園舎をもたないインターネット保育園「ほうかご保育園」を運営しています。現在、0歳~小学校3年生までの子を持つ家族が集まって交流しているオンラインサロンです。アート・科学・多様性をテーマにした月1回の登園日に加え、オンラインではスレッドを立て、私や小竹が回答したり、ママたち同士でコメントをし合ったりしています。たとえば「外に行っても、穴を見つけて、寝転んで覗き続けています!」「方眼紙にひたすら丸を書き続けています!」という、一見、遊びではないように思われるこどもらしい行動(私たちは探求活動と呼んでいます)を見つけるものから、「飽きずに移動できるように、どんな工夫をしていますか?」「帽子をかぶりたがらなくて困ってます、なにかアイデアありませんか?」などといった相談まで、さまざまです。「おやこ保育園」は10回の卒園型なのですが、「終わっても集う場が欲しい」という声や、0〜2歳以外の子を持つ親御さんからも「コミュニティに入りたい」という声があり、始めました。
「おやこ保育園」と「ほうかご保育園」は自主業なのですが、基本的には地域や企業とのコラボレーションをメインで行っています。たとえば、新しいファミリー層の顧客を増やすための企画を考え、運営したり、シッターサービスの立ち上げ時に、親への呼びかけの方法や文言を考えたり。他にも、こどもが出演するWEB CMのオーディションや脚本のお手伝いをしたこともあります。やっていることはさまざまですが、保育園のクラス運営をしていたころの延長線上でお仕事しているので、特に難しいと思うことは何もないですね。
子育てって、哲学のように答えのない世界に突入するもの。正解・不正解の軸に慣れすぎていると、不安になりやすかったり、どうしたらいい子が育つかという答えを知りたくなったりしてしまうようです。「こどもたちは何もできないから、大人が正しいことを教えてあげなきゃ」と思い込んでしまっていることが多いのではないかと感じています。
私たちは保育士として、現場でこどもたちと関わる中で気づいたことがあります。「こどもたちに教えるのではなく、こどもが自ら育てる環境をつくることが大人の役割だ」ということです。こどもたちがそもそも持って生まれてきている力があるので、大人たちにそれに気づいてもらい、大切にできる社会をつくることこそが必要なことじゃないかと思うようになりました。
モノも、サービスも、イベントも、すべてはそのための手段でしかありません。そうやって、私たちがこどもたちに教えてもらったことと、地域や企業の強みを掛け合わせて、手をつなぎながら社会を作り、メッセージを発信しつづけたいです。
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- どんなきっかけで「こども」に関心を持つようになったのでしょうか?
小学生の時の友人がハンディキャップを持っていて、自分自身は特に何も思うことはなかったんですけど、なにかこう、周りから冷たい目で見られている気がしたんですね。「なんでみんな差別するのかなぁ」と幼いながらに疑問に思っていました。高校生になってアルバイトを始めた時に、障がい者の方が来店された時も。スタッフはみんな戸惑って、どこか怖がっていたんです。そんな経験から「だれが悪いとかではなく、どう接していいか分からないから避けてしまうのかもしれない」ということに気が付きました。
当時、ちょうど進路を考えるタイミングで、福祉について調べていたところ「well being(幸福。身体的、精神的、社会的に良好な状態)」という言葉に出会いました。「この考え方ってすごく素敵だけど、どのようにして人に広めていくんだろう?」という疑問が浮かんだので、それを知りたくて福祉学部に進学しました。
でも結局、大学の授業で学んでも福祉というものがなんなのか、よくわからなくて。「それなら現場で学ぼう」と思い、自閉症のこどもが通う福祉施設でボランティアをするようになったんですね。そこで「こどもたちって感情のまま生きてるんだなぁ、うらやましいなぁ」と思いました。他にも、自分の好きと嫌いを知っていたり、思いを素直に伝えられたり。“みんなが豊かに暮らす”ってどういうことなのか、こどもたちってもう知っていたんです。気持ちを伝え合って、たまにはぶつかることもあるけど、次の日には「ごめんね」って自分でちゃんと謝れる。「戦争って、この子たちがこのまま大きくなったら起こらないんじゃないか」、そう思うようになりました。彼らがそのまま育っていける土壌、彼らの目をつまない環境をつくれるかどうかは、周りにいる大人たちの意識次第だと考えるようになったんです。
- 保育の道にはそれから進まれたんですか?
いえ、大学卒業後はまず企業に就職し、会社員として働き始めました。仕事に支障が出るとまずいので、ボランティアや課外活動もすべて辞めたんです。でも半年くらいたった時に、逆にすごくしんどくなってしまって…こどもたちと過ごす時間が自分には必要だと気づき、入社半年でボランティア活動を再開し、「もっとこどもとじっくり過ごしてみたい」と思うようになり、1年半くらいで会社を辞めました。20歳のとき独学で保育士資格を取っていたので、まずはアルバイトから保育園に入ってみました。
いざ保育園で働き始めてみると、現代社会の課題の本質や現場の課題がいろいろと見えてきました。また、こどもたちに与える親や社会の影響力を目の当たりにし、「このままでこどもたちの未来は大丈夫なのかなぁ」と漠然と不安になりました。
友人にそのことを話したら「園の外で活動している保育士の子がいたよ」と紹介してもらって。それが、現在一緒に代表を務める相方・小竹との出会いです。「そもそもこどもたちは、自分で育つ力を持っている。何か教えるというおこがましいことは言えない。私たちにできることは、こどもたちがそのまま育っていけるために、社会をどうデザインしていくか。それを、保育士としてもっとやっていくべきなんじゃないか」、そういうことを、カフェで3時間も語り合いました。
そうして2人で、まず生み出したものが「オトナノセナカ」です。現在は他のメンバーがNPO法人として運営していて、“こどもも大人も凸凹(違い)を認めあえる社会づくり”をしています。2012年には、他のメンバーとともに、遊びを軸にしながら、こどもも大人もみんなが平等に過ごせる子育てコミュニティ「aosbi基地」を、2013年には再び小竹と一緒に「合同会社こどもみらい探求社」を作りました。
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「オトナノセナカ」開催時の写真。1列目右端が小笠原舞さん、隣が小竹めぐみさん
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- そんな小笠原さんが最も影響を受けた“発明”について教えてください。
ミヒャエル・エンデ著の『モモ』という児童書ですね。会社員として働いていた時の同期が、小さい頃すごく好きだった本だと紹介してくれて知りました。
簡単にあらすじをお話しすると。“時間泥棒”っていう灰色の男が出てきて「あなたの寿命はあとこれくらいです」「あなたは毎日これだけの時間を無駄に過ごしています」などと言うんです。すると、「あれやらなきゃ、これやらなきゃ」ってみんな焦って、忙しくなって、余白の時間がなくなっていっちゃうんですね。そこで、主人公の“モモ”がキーとなり、みんなが余白(豊かさ)を取り戻していく、というお話です。
おもしろい話なんですが、ものすごく深くて。現代社会の落とし穴みたいなものが詰まっていると思いました。児童書なのに、現代の大人全員読んで!というくらい、すごい本で。「おやこ保育園」の1回目の授業のテキストにも私たちの好きな文章を抜粋して使用しています。私と小竹のバイブルみたいな存在でもあります。
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モモ』ミヒャエル・エンデ 著 大島かおり 訳/岩波書店

- これから、どんな“発明”に挑戦したいですか?
うーん、こういうモノをつくりたい!という1つの具体的なものはなくて…。どんなモノ・コト・ヒトとでもコラボレーションできるので、まだ私たちが出会っていないモノ・コト・ヒトと出会うなかで、どんな化学反応が起きていくのか、それが楽しみです。“こどもたちにとって、本当にいい社会とは?”という問いを軸に、さまざまな人と出会い、手をつなぎ、私たちにできる方法でこどもたちにがよりよく育つ環境を作っていきたいと思っています。
会社のこれからも、私たちの人生も、これから何が起きるか分からない状態が楽しいし、これからも楽しみたいんです。「お互いの大切なものを大切にしながら、私たちらしい生き方をしていきたいね」と、いつも2人で話しています。そういう風に生きれること自体も、私たちの良さなのかなぁ、って思うんです。“キャリア”と言ったらちょっと違うけど、私たちの生き方自体も、誰かの何かの役に立つといいなと思います。せっかく生きてますしね(笑)。
- 最後に、さかわ発明ラボへのメッセージをお願いします。
こどもの生み出す世界に、価値をつけてほしいです。こどもたちのアイデアに対して、「これはおもしろい発明だね」とか、「すごく素敵なことに気が付いているね」とか。そんなふうに、こどもの世界を代弁する大人たちが増えたらいいなぁと思います。大人のコントロールを入れずに、こどもたちの視点で見るまちとか、本当の意味でのこども主体のプロジェクトをカタチにしてもらったら楽しいかもしれません。今までにない切り口でこどもたちのことをもっと知ってもらえるような、新しい発信をしてもらえたら嬉しいです。

(取材日:2016年8月26日)



【「こどもみらい探求社」のお二人の著書が出版されました!】
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いい親よりも大切なこと ~こどものために“しなくていいこと”こんなにあった!~』小竹めぐみ・小笠原舞 著/新潮社(2016年12月16日発売)
(小笠原舞さんからのメッセージ)
たくさんの家族に出逢いたくて、園を飛び出し、あらゆる活動をしてきた私たち。一番多くの家族に出逢える力を持つ“本”という手段に辿り着くことができました。私たちが大事にしている目に見えないことを、そのままお届けできるようにするのに、苦心しながら書き上げました。「いつも笑顔でいなきゃ」「ママ友をつくらなきゃ」と一生懸命がんばるママに、ぜひ読んでもらいたい一冊です。

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70センチの目線』小竹めぐみ・小笠原舞 著/小学館集英社プロダクション(2017年1月25日発売)
(小笠原舞さんからのメッセージ)
すべての元こどもたち=すべての大人へ送る本。ことば担当は小竹、写真担当は小笠原と、二人の強みをかけあわせ、そこにこどもたちの力も借りて作品を作りました。ページをめくるたび、思わず笑って、思わず頷き、思わず何かを思いだすことと思います。自分自身や、大切なあの人への贈り物に最適の一冊です!


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